「buoy sign project」が描く未来ー十八番からはじまる私のSDGsー

Magazine
2023.12.14

WELAGOのロゴマークがあしらわれたこちらの球体のオブジェ、何だと思いますか?

これは伊豆大島で実施されたビーチクリーンの際に拾ったブイ(うき)にペインティングした作品で、京都府京丹後市を拠点にアーティスト兼デザイナーさらには経理業務とマルチに活躍されている余根田直樹さん(Instagram:@yone709)に依頼をして制作したものです。余根田さんは今回の作品のように役目を終えて捨てられてしまったものに新たな価値を見出し再生させることで、自然が本来持つ循環・再生のシステムや環境問題に対してもっと関心を持ってもらうべく、アートという側面からアプローチしています。

今回はそんな余根田さんに、現在に至るまでの経緯や活動についてお伺いしました。

ー編集部
余根田さん、はじめまして。今回は素敵な作品をありがとうございました!今日はこちらの作品を中心に色々とお話をお伺いしていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。まずは簡単に自己紹介からお願いできますでしょうか。

-余根田さん
はい、はじめまして。余根田直樹と申します。
兵庫県養父(やぶ)市の出身で、実家が大工を営んでいたこともあって大学は建築学科へ進学しましたが、当時建築業界が超氷河期で悩んだ末に建築業界への就職を断念。ちょうどその頃に友人から絵本制作を頼まれたことがきっかけでその面白さに目覚め、絵本作家になりたいという夢を抱き、図書館に通って絵本を読み漁りながらバイトで生計を立てつつ、絵本を描いていた時期もありましたが、道のりはなかなか険しく断念。その後、公務員試験を目指しましたが最終面接で落選してこれも断念。結果的に豊岡市が日本有数の鞄の産地ということもあって鞄のデザイナーとして働きはじめました。鞄のデザイナーといっても私が入った会社にはデザイナーは私一人だけ。右も左も分からず、独学で必死に取り組みましたが、もっと別の世界を見てみたいという思いから税理士事務所に転職をしました。

税理士事務所では11年間勤めまして、退職した後に現在暮らしている京丹後市へと移住して今に至ります。移住してもうすぐ4年目になります。

今はデザインやアートといった創作活動の他に、城崎国際アートセンターでアーティストのマネジメントなどを行う会社の経理サポートを行ったり、京丹後市にある株式会社うらうらという会社でコワーキングスペースやカフェといった複合型の施設の運営などのお手伝いをしています。

ー編集部
なかなかの経歴ですね笑。波乱万丈と言いますか、世の中の景気の波に翻弄されながら、自身の可能性に正直に向き合いつつ様々なお仕事を経験されてきたようで、それこそ理系・文系、右脳・左脳関係なくオールマイティな姿勢で進まれてきたのがよく分かりました。

そして、現在はアーティスト、デザイナー、経理業務という3足の草鞋を循環させながら取り組まれていらっしゃいますが、実際にジャンルを超えて幅広くお仕事をされてきた中でメリットに感じた点や発見などはありますか?

ー余根田さん
そうですね。例えば、デザインのお仕事をする際に建築学生のときに学んだパースの描き方が役に立ったり、豊岡市にある商店街からのお仕事では鞄のイラストをモチーフにした顔出しパネルを作らせてもらったのですが、鞄のデザインをしていた時によく描いていたイラストの経験が生かされたり、あとアーティストの方って確定申告とか苦手だったり不慣れな方が比較的多いので、そこに税理士事務所時代に培った個人の経理処理が役に立ったり…。考えてみたら今までいろいろ寄り道はしてきましたが、そんな様々な経験が何かしらの役に立っているんだなと思うことがよくあります。なので、きっと無駄だったことはひとつもなくて、全てが今につながる良い経験となっています。

ー編集部
なるほど、それは興味深いですね。あらゆる経験を今のお仕事に活かしている余根田さんのワークスタイルはこれからの働き方のスタイルとしても参考になりそうです。ところで、税理士事務所で働いていた時期もデザインやイラスト等のお仕事や活動はされていたのでしょうか?

-余根田さん
はい、税理士事務所に転職する際には周囲から「思い切ったねー」と言われることが多かったのですが、税理士事務所で働いていた時期もデザインやイラストの仕事は趣味の領域内で行っており、その仕事の比率が今は逆になったぐらいのイメージなんです。なので、そこまでライフスタイルが変わったという印象はないですね。

税理士事務所に勤務していた頃も地域のイベントやコミュニティに積極的に参加していて、そこでは主にデザイン業務担当として動いていました。また、SNSに個人的にアップしたイラストの反響が大きかったり、こっそりグループ展や個展を開催するなどして日々絵を描いて多くの方に見てもらう機会を自らつくることで、いつでも転職できる状況を窺っていたし、準備をしていました。

-編集部
なるほど、着実に先を見据えて行動しながら準備をされてきたわけですね。
そんな余根田さんですが、今回制作をお願いした作品のベースとなるbuoy sign project(ブイサインプロジェクト)について教えていただけますか?

-余根田さん
はい、京丹後市に移住してから気晴らしに海岸をよく散歩するようになったんです。山育ちだったこともあって海岸沿いを散歩するのが新鮮で楽しかったのですが、その時に海岸って結構汚いんだなということに気づきました。それまでは夏場の海しか知らなかったわけで、夏は海水浴客も多く訪れるので清掃が行き届いているのですが、それ以外の時期ってゴミが漂着しても定期的に清掃が入らないのでどんどん汚れていく。そんな状況をみてこのゴミ何とかならないかなと考えるようになりました。

そこで、最初は海岸に漂着していたシーグラスや流木といったものを素材として活用をはじめたのですが、そういった素材はすでに多くの活用事例があったので、もう少し違った素材を使いたいなと思って、見回したところブイ(うき)が面白そうだと思いました。このブイをペイントしてみようとはじめたのがbuoy sign projectのきっかけです。

ただペイントして作品にするだけでは、どんどん手元に溜まっていく一方なので、それでは環境問題の改善には繋がらないと思い、であればお店や会社のロゴマークをペイントすることでシンボリックでキャッチーなオブジェクトとして活用できるのではないかと思いつきました。看板やサインとして活用できますし、SNSのアイコンとしても同じ正円なので、相性がよい。また、海の近くということをアピールできたり、環境問題について考えてみませんかと投げかける際のアイテムとしても使える。さらに塗り直せば再々利用ができるわけで、素材として面白いなと思いました。最初は興味本位で遊んでいたのですが、これをプロジェクトとして動かしたら仕事としてはもちろん、社会的側面から見ても意義のある活動にできるのではないかと考えました。

ー編集部
移住者としての第三者的視点から地域を見ることで気づきが生まれ、そして、遊びから発展させていくことで柔軟な発想が生まれる。理想的な流れですね!京丹後の海を通じて地球環境や海ごみ問題について考えたり、気づいてもらうきっかけを生み出し発信する取り組みが素晴らしいと思います。

-余根田さん
ありがとうございます。すでにお話ししている通り、この取り組みを「buoy sign project」と名付けました。“ブイ”のつづりが“buoy”になるのですが、英語の動詞で「浮かせる」という意味の他にも「支える」とか「元気付ける」とか、さらには「景気が上がる」とか「浮上させる」といった意味合いがあって、すごく縁起が良いなと思いました。あとブイでサインをつくるので「Vサイン(ピースサイン)」にも通じるところがあって験担ぎとしても打ち出せるのではないかと思っています。

-編集部
面白いですね!本来「海ごみ」というネガティブな要素をもったbuoy(ブイ)から前向きな意味合いを持つ言葉を見出し、ポジティブな姿勢に持っていくところがアート的で素晴らしいです。前向きな未来を切り開いていくという姿勢が周囲に良い影響を与えそうです。

-余根田さん
僕のやりたいアートは良い材料を使って何やらすごい作品をつくるのではなく、余っているものや既にそこにあるものを使ってアート作品をつくるという、いわば“シェフよりシュフ(主夫)”というスタイルで、残りもので夕飯をつくっちゃうような主夫的視点でアート活動に取り組みたいという思いがあります。

-編集部
今後もbuoy sign projectは継続されるのでしょうか

-余根田さん
はい、理想は「(海ごみが少なくなってブイが手に入らず)すみません、只今buoy待ちなんです!」と言いたいところなんですが、冬場には絶え間なくブイが漂着するのでまだまだ長丁場になりそうです。

-編集部
それぐらいの勢いでたくさんの海ごみが流れ着いているのですね。

-余根田さん
ブイは漁業道具なのですが、海上状況等でやむを得ず切り離して捨てるケースが少なからずあるのだろうなと、魚網とかも沢山漂着しているのですが、なんとか認識を変えたり仕組みを考えていけたらと思いますね。

-編集部
他に着目している素材はありますか?

-余根田さん
そうですね。主に子供たちを中心に実施するワークショップではシーグラスを使った作品づくりやシー陶器(陶器の破片の漂着物)をモザイクタイルのように使って好きな造形を作る活動もしています。

あとは、流木を使ってクリスマスツリーを作ったり、流木にヒレをつけて魚をつくろうとか、主に海のものを使って様々なワークショップを企画しています。

最近では地域の高校生の探究の授業でプラスチックの破片を使ったアート作品を作ったりしています。授業を通じて海ごみや環境問題について考えてもらったり、みんなとディスカッションしながら取り組んでいます。

-編集部
地域の子供たちに環境に対する意識を持ってもらうことは長期的視点で持続可能な社会を築いていく機運を高めていく上でもとても大切ですよね。ところで、海のゴミを使った様々な活動を通じて環境問題に対する意識を高めていく活動をされていると思いますが、その中で苦労や課題に感じていることはありますか?

ー余根田さん
海ゴミは片付けても次の日にはさらに溜まっていることがよくあって、心が折れそうになります。ただ、僕一人がどんなにゴミを拾ってもたかが知れているわけで、僕の役割はゴミがこれだけあるという現状を知ってもらう為に行動することだと思っています。さらには海ごみからまずは楽しさを生み出していくことで、現状を知ってもらう入り口をつくり、そこから環境問題に対して多くの人が考え、共有し、意識しあっていけるような取り組みへと発展していけたら良いなと思っています。

できれば、今は京丹後という地域で主に動いていますが、将来的には外に向けても動いて行けたらと思っています。

ー編集部
地域を超えて活動の幅を広げていきたいという思いがあるのですね!では、今後のビジョンや考えていることなどを教えていただけますか?

ー余根田さん
今はbuoy sign projectを中心に海ごみを使って環境問題に対する啓蒙につながる活動を行っている一方で、ビーチクリーンの活動自体を楽しくできないかなと考えています。例えば、ゴミ袋に赤とか青とか緑とか、色の名前を書いておいて、拾ったゴミの色と同じ色が書かれたゴミ袋に入れるということをやったことがありました。そうすることで、ゲーム性が生まれますし、拾ったゴミの色と同じ色のゴミ袋を持つ人を探したり、呼びかけあったりすることで参加者同士のコミュニケーションが生まれます。ちょっとした工夫で状況は変わるなと思いました。

あとはブイを使ったスポーツを考えるとか笑。
個人的にボードゲームが熱いので、ビーチクリーン後に拾ったペットボトルのキャップとかで何か遊びができないかな、とか基本的に何でも遊びと絡めたいタイプの人間なので、色々と試しながらやっていきたいなという思いがあります。

ー編集部
遊びから入ることで発想が柔軟になって意外なところに楽しさを盛り込めたりしますよね。ゴミ袋に色を書くアイデアは面白いですね。とても参考になります。

-余根田さん
あとは淹れた後のコーヒーかすを画材として使って絵を描いたり、ワインのインポート会社で売れなくなってしまった廃棄ワインを使って絵を描く食品アートというものもやっています。最近では、チョコレートや藍染など、これで描いてみませんか?と地域の方からお題をもらうことも増えてきました。

ー編集部
食品アートも面白いですね。廃棄された野菜くずを染料にして衣類を染めている取り組みなど聞いたことがありますが、もったいないものや捨てられてしまうものに新たな価値をつけて作品作りをされていて、どの取り組みも一貫性があって素敵ですね。そんな余根田さんが今後大切にしていきたい考えや概念みたいなものはありますか?

ー余根田さん
ゴミって漁網やプラスチック容器など元々は当然それぞれの役目があって普通に使われていたものですよね。そんなゴミの次の未来の姿として僕はアート作品に仕立てていますし、もう一度マテリアルとして再利用している人もいます。さらにゴミがエネルギーとして活用できたら本当に素晴らしいことだなと思うのですが、例えばミュージシャンだったら楽器としてゴミを作り変えて使うなど、その人が得意なこと、つまり、おはこの部分を活かした再利用なんか面白いと思っていて、“おはこ”って十八番って書きますよね?SDGsが掲げている国際目標は17項目あるわけですが、17の次の18番目をその人の十八番の部分で補って環境問題と向き合っていけたら面白いんじゃないかなと常々考えています。
引き続きゴミの未来を考えていきたいです。

ー編集部
「十八番からはじまる私のSDG’s」最後にとっても良い話が聞けました。ありがとうございます!

ゴミの未来を考えるってとてもいい言葉ですね。これまで消費一辺倒で発展してきた世の中が、少しずつ行き詰まりを見せはじめ、気候変動をはじめとした自然界の歪みがそこらじゅうで起こりつつある中で、あらためて自然が持つ循環や再生システムによりそった姿勢を持ち、自分本位ではなくもっと視座を高めて世の中を意識することだったり、次の世代へ責任を持って受け渡していく姿勢を持つ事はとても大切な視点だと思うので、僕らもしっかり考えていきたいなとあらためて思いました。今回はお忙しい中ありがとうございました!

WELAGO版「buoy sign」ができるまで

最後に、今回制作をお願いしたWELAGOのロゴマークがあしらわれたbuoy signができるまでを載せて締めたいと思います。こちらのbuoy signはIzu-Oshima Co-Working Lab WELAGOに設置していますので、お立ち寄りの際は是非ご覧くださいませ。

  1. 水洗いしサイズを計測する
  2. サンダーで磨く
  3. 油性ペンキで下地を塗る
  4. 水性ペンキで背景色を塗
  5. ブイに合わせたロゴサイズを計算してトレースする
  6. ロゴの色を作成してペイントを2度塗りする

Back