クリエイターならワーケーション!ーワーケーションによって広がるクリエイティブワークの可能性ー

Magazine
2023.12.27

もうすっかりお馴染みのワードになりつつある「ワーケーション」。「ワーケーション」は「work(仕事)」と「vacation(休暇)」を組み合わせた造語で、リゾート地や帰省先など、職場や自宅とは異なる環境で働きながら休暇も取得するという行為です。そもそもワーケーションの概念が生まれたのは2000年代にアメリカで生まれたのがはじまりで、インターネットとノートPCが普及し、場所を選ばずに仕事ができる環境が整ったことで旅行先である日常から離れた場所で仕事を行うことで、生産性や心の健康を高めながら、より良いワーク&ライフスタイルを実施することができる新たなワークスタイルです。

人類は本来移動する生きものだった

ところで、時代をビューンッと遡ると私たちの祖先となるかつての人類は狩猟採集によって食料を得て命を繋いできました。自然界に存在する生物や植物を自らの足で移動しながら自らの手で捕獲することで食料を確保してきたわけで、当然同じ場所で狩猟採集を繰り返せば獲得すべき食料は乏しくなっていきます。そのタイミングが訪れる前に別の場所へと移動をしながら常時食料を確保できる状態に保っていたわけで、現在のように特定の場所に定住するのではなく、一定の範囲内を移動して暮らすことで人類は命をつなぎ、進化をしてきました。このように移動しながら生きていく生活を遊動生活と呼ぶそうです。

さて、人類の祖先は約400万年前にアフリカで誕生したとされていて、一方で、人類がひとつの場所にとどまり続ける定住生活をはじめたのが今から約1万年前とされています。大雑把に解釈してしまうと人類誕生からほとんどの時間を遊動生活によって暮らしてきたことになります。つまり、人類は本来は移動しながら生活をする生きものだったと考えられるわけで、1箇所にとどまらずにさまざまな場所に移動して生活するスタイルは人類の遺伝子に深く刻まれた止むことのない営みだとも考えられます。だからこそ、旅は人々にとって常に憧れであり、楽しみでもあったりするのではないでしょうか。日常とは異なる場所に身を置くことで得られる享楽は、私たちがより豊かに創造性に満ちた暮らしを営んでいくためになくてはならない感覚・行為なのかもしれません。

人はなぜ旅行するのか

私は以前から旅行が好きで、家族とよく様々な場所へ出かけます。なぜ旅行が好きなのか考えてみると、一言で言えば(知的)好奇心なのかなと個人的には思います。例えば、個人的に訪れた先々で気になるのは建築で、訪問先が決まったら周辺に有名な建築や面白い建築がないか探すことからはじめたりします。

建築に興味を抱く理由としては、土地の条件や施主の要望、予算といったさまざまな要件や仕様、制約の中でその土地の環境的状況はもちろん、歴史的文脈や文化的背景を踏まえた上で、建築デザイナーの個性や発想そしてノウハウが注がれることで、コンセプトや思想が適度に表現された特徴的な空間が生まれるところに社会的創造性とも言えるノウハウが詰まっていて、多くの気づきが得られるところが面白いと感じているからです。そんな建築空間に身を置き想像することでさまざまなインスピレーションが湧いてくる感覚だったりプロセスが好きなのです。さらに建築に限らず、地域ならではの特徴的な景観からそこで育まれてきた自然や文化、歴史など、多くのことが読み取れる上に自由に想像したり考えたりすることができるのも旅の楽しいところです。もちろん、その土地ならではのグルメやアクティビティも外せないのは言うまでもありません。

旅をすることで五感を通じてさまざまな情報に触れることができる。そして、自由に思考し想像することができるのは大きな喜びでもあります。
旅は日常から物理的にも精神的にも距離を置くことで、別の角度から思考が進み、新たな姿勢で自分自身や物事に接することができる。とてもポジティブな活動だと思うのです。

そこで今回は旅とワークを結びつけたワーケーションによって広がるクリエイティブワークの可能性について私の最近の経験からお話したいと思います。

旅先の経験を表現に落とし込む

レストラン、ホテル、ファッションストアなど最新のストアデザインを紹介する専門誌「商店建築」とフロンティアコンサルティングのコラボにより、主にオフィスデザインの作品を競う学生コンペ「OFFICE DESIGN COMPETITION」が企画・実施されました。私はそこで、メインビジュアルやWEBサイト、誌面広告の制作を担当させて頂いたのですが、ロゴやメインビジュアルはちょうど三重県を訪れているときに手がけたもので、まさにワーケーション中に手がけたものになります。

学生コンペのテーマが「Local Knowledge 都市と地方をつなぐ、知の交わり」ということで、設定されたテーマに基づいたビジュアルを考える必要がありました。

滞在先となった三重県多気町にある日本最大級の商業リゾート施設であるVISONは、食や健康をテーマにした専門性を持った施設を中心に、美しい循環を目指す場所で、都市への人工流出や地域経済の低迷などの課題に焦点を当て、伝統と革新を融合させたプロジェクト。施設の規模は非常に大きく、各施設や機能の構成、全体のランドスケープ、様々なデザイン要素など、参考にすべきポイントが多数ありました。特に三重大学とロート製薬株式会社が連携し施設内や周辺の薬草畑の薬草を活用して季節に合わせて薬草湯が楽しめる本草湯は温泉とはまた違ったアプローチで新たなウェルビーイングに通じるリラクゼーションを提供されていて非常に興味深いうえに大いにリラックスできました。

さて、前述のメインビジュアル制作にあたり、Visonからの風景が大きなヒントになりました。山々の稜線とともにVisonを構成する美しいラインを描く建築物が敷地内で対話するかのように配置されているランドスケープはまさに「都市と地方をつなぐ、知の交わり」でした。そんな風景を前にタイトルロゴからメインビジュアルまで一気に仕上げたのを思い出します。

新鮮な刺激に満ちた場所で手を動かすと普段あまり起こらないようなインスピレーションが湧いてきます。そんな体験をこの三重県の旅では経験することができました。結果として、VISONで見た山々の稜線と都市の風景を抽象化させたグラフィックをベースにレイアウトすることで、学生コンペのテーマを表現したメインビジュアルを制作することができました。

続いてのお仕事は夏に京都・奈良に10日間ほど滞在した際に仕上げたイラストのお話です。訪れた時の京都は5月に新型コロナが5類に移行し、コロナ禍が明けたこともあってか多くの外国人が訪れていたようで、日本人よりも外国人観光客の方が多いのではと思えるほどたくさんの外国人観光客で賑わっていました。そんな京都では、夏休み中の長女が趣味としてはじめた御朱印集めを目的に主要な寺社仏閣を訪れながら、常に頭の片隅で巷で人気のアウトドアスパイス「ほりにし」のご当地版ラベルである大島町のご当地ほりにしラベルのデザインを考えていました。

京都といえば歴史的な価値と美しい自然が融合した場所であり、伝統と革新が共存する都市です。古い街並みや伝統的な祭りが息づき、同時に先進的な技術や文化も育まれていて世界中の人々に注目されている場所でもあります。そんな京都で立ち寄った老舗の和菓子店で見たシンプルで洗練された和菓子や趣向を凝らしたお土産の数々を眺めているうちに、今回のイラストは和菓子のようにシンプルなラインでスッキリ描こうと決めました。描く対象は大島らしさの象徴とも言えるアンコさんと椿。椿についてはすでに様々なイラストが存在していたのであえて今までになかったようなデザインにしたいと考えていました。その際のヒントとなったのが和菓子の造形や御朱印含め神社で見かけた和の精神を踏襲しながらも無駄を削り落としたシンプルで美しい造形。それぞれの造形からヒントをもらいながら新たな椿をデザインしました。アンコさんについても全体的なテイストを大切にしながら、アウトドアスパイスではあるけれども、実際には日常的な調味料として食卓に並ぶことも想定した上で飽きのこないものを目指しました。

ワーケーションは心身ともに前向きで豊かな状態に持っていってくれるポジティブな活動

というわけで、今回2つの事例とともにワーケーションによって広がるクリエイティブワークについて考えてみました。新型コロナウイルスによるパンデミックによって大きく変わった社会環境の中でインターネット環境を活用したコミュニケーションツールも大きく発展し、ワークスタイルもリモート化が進みました。今やモバイル環境を活用することで場所を選ばずどこでも好きな場所で仕事をすることが可能となりました。

日常から離れて新鮮な環境に身を置きながらインターネットを通じて時間や距離的な制約を受けることなく仕事を行なうことで、より豊かな創造性が発揮され、心理的負担なく仕事に取り組むことができます。ワーケーションは心身ともに健康的に仕事に取り組むことができる素晴らしいワークスタイルと言えるでしょう。今後も多くの方がワーケーションをはじめとした新たなワークスタイルをうまく取り入れながら、創造性を大いに発揮することで、より良い社会を築いていく機会が次々と生まれてきたら素敵だなぁと思います。そんな状況をイメージしながら今日もWELAGOで仕事に励む筆者なのでした。

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