『東京諸島の人口規模から考える島々の特徴』
同じ東京の島であっても、南北1,000kmに広がる東京諸島は個性が溢れています。そんな東京諸島を今回は『人口規模』を切り口に考えてみたいと思います。東京諸島には有人島が11島あり、150人規模の島から7,200人規模の島まで存在しています。以下のグラフをご覧ください。
東京諸島11島の島別人口と規模分類(東京都離島区作成)
ご覧いただいてわかるように、東京諸島の11島は大きく分けて
- 大規模:伊豆大島、八丈島
- 中規模:三宅島、父島、新島、神津島
- 小規模:式根島、母島、利島、御蔵島、青ヶ島
の3カテゴリーに大別できると言えます。
人口規模によって何が違う?
●面積の特性
一概には言えないのですが、やはり人口規模によって島の大きさが比例する傾向があります。以下が、人口と面積との相関を示した図になります。
東京諸島の島別人口と面積の相関図(東京都離島区作成)
ご覧の通り、ほとんどの島が人口と面積が相関する傾向にあります。もちろん特例もあり、図の真ん中ほどに位置する三宅島は、面積の割りに人口が少ないように見えます。なぜでしょう。
三宅島の場合、2000年に大規模噴火を経験しました。この時、直接の死者は出ていません。しかし、2000年の噴火においては、火山ガスや火砕流(低温)が噴出される噴火となってしまったため、島民は全員島を出なければいけなくなりました。全島避難を経験しました。その期間はなんと4年半。いつ島に帰れるかわからない状況での避難生活でした。そのため、避難場所での生活を始めた方々は、避難解除となってもそのまま島には帰ることはできずにいる方も多いと聞きます。以下のグラフを見ていただくと、1995年から2005年にかけて約1,500人近くの人口が減っていることがわかります。
東京諸島の人口推移と推計(地域経済分析システムRESASより)
●町の居住エリアの特性
島の形は様々です。丸い島もあれば、細長い島、ひょうたんのような形をした島もあります。
東京諸島11島の形状(東京都島しょ保健所より)
傾向として大きく分けると、
- 面積の大きい島は居住が分散している
(大島、三宅島、八丈島) - 面積の小さめの島は居住が集中している
(利島、新島、式根島、神津島、御蔵島、青ヶ島、父島、母島)
面積が大きく人が多いから居住を分散させたのか、分散して暮らしやすい地形だから人が増えたのか。鶏が先か卵が先か問題はありますが、大きな島は地区が分散している傾向があります。元々は、島の中でもいくつか村(自治体としての)が存在した島もあります。そのため、一つの島でも地区により文化や特性・地域言語が違うことさえあります。一筋縄では理解できない島の文化も魅力の一つですね。
●島内交通の特性
島の交通手段は、主に車移動です。しかし、島の人口規模や面積により、頻度や使用距離にかなり差があります。小規模離島においては、成人でも車両を保有をしていないこともあります。逆に大きい島だと、隣の地区に行くのにも歩いて行くには難しい距離であることも多いので、ほとんどの方が車両を所有している傾向があります。以下の図が人口と車両の登録数のグラフです。基本的には人口の3分の1程度の方が車を持っているような数字でした。
東京島しょの市町村単位人口と車両の登録数(東京都離島区作成)
●コミュニティ
気になるのがコミュニティですよね。島での暮らしにどんなイメージをもっていますか?「玄関に野菜や魚が置いてある」イメージでしょうか。「森の中で誰にも会わずに静かに本を読む」イメージでしょうか。
先述のように、東京諸島は11島あり、コミュニティの特徴は島により様々。そのため、自分が望む「暮らしの在り方」から、どんなコミュニティが良いか選ぶこともできます。
ただ、特性としては人口規模が小さければ小さいほどコミュニティは濃くなる傾向があります。人口300人ほどの島では、ほとんどの人が知り合いで、人知れず暮らすことは難しいでしょう。逆に2,000人以上の中規模の島であれば、程よい距離感を保ちながら暮らすこともできるでしょう。
大切なことは、「自分が島とどう関わりたいのか」を考えておくことだと思います。地域の中に自分の役割を見出すことが生きがいだと思う方もいれば、島の自然の中でゆっくりすることが理想だと思う方もいます。移住当初に欲張って色々な地域活動に参加し過ぎたり、肌が合わないのに辞めることができなくなったりして疲弊してしまう移住者を見てきました。まずは自分が島の空気に慣れること。その上で、少しずつ自分なりの地域との関わりを形成していくことで、自分の居場所を見出せるはずです。
多様な島との関わりの図。みんな違ってみんないい
上の図の様に島との関わり方は多種多様。コミュニティへ参加する時は、自分が望む島との関係を考えた上で「無理をしない・気負わない」ことが大切です。
いい意味で、島を利用して自分の人生を豊かにするくらいのスタンスがちょうど良いかもしれません。関わりの濃度の濃淡や移住したかどうかは関係なく、島を価値として感じてくださる人口が増えることは、結果として地域の底力に還元されます。なので、気負わず無理せず自分なりの関係性をゆっくり築いていくことをオススメします。
●観光特性
気になる観光について。観光の在り方は、特に人口規模によって特性が出やすい傾向があります。まずは、島別の観光客数を見てみましょう。以下は2022年の島別の年次観光客数です。
2022年の島別観光客数(作成:東京都離島区※東京都観光データカタログより抽出)
ご覧いただいてわかるように、島ごとにかなり差があります。立地的特性も関わってくると思いますが、基本的には人口規模が大きい島ほど観光客も多い傾向があると言えるでしょう。
また、観光産業への力の注ぎ具合によっての特性もありそうです。以下は、年間観光客数を人口で割り、人口一人当たりが年間受け入れている観光客の人数の指数です。
島別の人口一人当たりの観光客数(作成:東京都離島区 ※東京都観光データカタログより抽出)
トップ3をオレンジ色で色付けしてみました。式根島が圧倒的であるというデータが出ました。実際に式根島は観光産業を主としており、温泉のバリエーション、宿の数やレンタルサイクルの数などコンパクトながらも観光客が楽しみやすい町となっているように思います。最近はコワーキングスペース付きの宿やグランピングも増え、ワーケーションの波にもしっかり適応している事業者さんが多いのも特徴かもしれません。
2位の伊豆大島は、やはり規模の大きさからする受け入れキャパと、本土からのアクセスの良さが抜群であることが、日帰り観光も含めて多い要因でしょう。3位の御蔵島では、人口は少ないのですがドルフィンスイムが盛んで、繁忙期は予約が難しくなるほど観光に特化しているので、この結果に繋がっているのではないでしょうか。
傾向としては、島の人口規模が小さければ小さいほど活かせる素材は少なくなるため、専門性に特化した観光の形を展開している様に思います。
まとめ
島の人口規模という切り口から、それぞれの特性を考えてみました。『彼を知り己を知れば百戦殆うからず』という孫子の言葉があります。勢い任せで飛び込むのも人生ですが、もし長くあなたの人生に島という選択を持ちたいと考えているのであれば、良質な一次情報に触れる機会を増やし、集めていくこともポイントだと思います。どこかの島でお会いできることを楽しみにしています。