伊豆大島から真鶴へ。「暮らし」を伝える町に学ぶ、これからの地域とコミュニティのあり方

Report
2026.03.31

先日、私たちWELAGOの運営メンバーで、神奈川県の真鶴町へ視察の旅に出かけてきました。
伊豆大島から少し足を伸ばした先にある、相模湾に突き出た小さな半島、真鶴。
なぜ今回、私たちがこの町を視察先に選んだのか。それは、真鶴が「地域の文脈や暮らしの息遣い」を何よりも大切にしながら、独自のまちづくりを進めている場所だからです。

真鶴出版の來住さん(前列中央)と記念撮影

伊豆大島で場づくりを行う私たちにとっても、「その土地ならではの自然や文化をどう守り、どう次へつなげていくか」は、常に模索し続けている大切なテーマです。比較的近隣でありながら、海や森といった豊かな自然環境を持ち、地域に根ざした活動を実践されている方々から直接お話を伺うことで、これからのWELAGOの活動のヒントを得たいと考えました。

今回の旅の案内人は、真鶴を拠点に「泊まれる出版社」として活動する『真鶴出版』の來住(きし)さん。
この記事では、真鶴での宿泊や「まち歩き」の体験を通じて見えてきた、何気ない日常の豊かさや、地域ならではの魅力の見つけ方についてレポートします。コワーキングスペースという働き方の視点だけでなく、これからの「暮らし」や「価値観」を見つめ直すヒントとして、少しでも皆様にお届けできれば嬉しいです。

「奇跡の町」真鶴ってどんなところ?

神奈川県の南西端に位置する真鶴町は、相模湾に突き出た小さな半島です。豊かな森(お林)と海に囲まれ、古くから漁業や、銘石「本小松石」の産地として栄えてきました。人口は現在6,000人台と決して大きな町ではありませんが、近年、その独自の景観やコミュニティのあり方に惹かれ、クリエイターや若い世代の移住者が増えており、「奇跡の町」として全国から注目を集めています。

その真鶴らしさを守り続けている最大の理由が、1993年に制定された「まちづくり条例」と、それに付随する「美の基準」という独自のルールです。
リゾート開発の波から町を守るために作られたこの基準は、「建物の高さは何メートルまで」といった単なる数値の規制ではありません。「静かな背戸(せど:路地のこと)」「実のなる木を植える」「石垣を生かす」など、69のキーワードで真鶴の風景が定義されています。

『美の基準』に基づき建てられた公共施設「コミュニティ真鶴」

これは単なる景観保全のルールではなく、「自分たちの町の何を愛し、どう残していくか」という、住民の価値観(フィロソフィー)の表明そのもの。効率化が優先されがちな現代において、この「美の基準」が町全体に息づいていること自体が、真鶴の大きな魅力となっています。

泊まれる出版社「真鶴出版」での体験

今回、私たちが滞在先として選んだのは、川口瞬さんと來住友美さんが運営する「真鶴出版」です。
彼らは、真鶴の情報を出版物として発信するだけでなく、ゲストハウスとして宿泊客を受け入れ、自ら町を案内することで、「訪問者と地域住民をつなぐハブ」としての役割を果たしています。私たちWELAGOも「人と人、人と地域をつなぐ場」を目指しているため、その活動スタイルには非常に共感するものがありました。

まち歩きに出かける前に真鶴町の概要について説明してくれました

滞在中は、來住さんのご案内で「まち歩き」を体験しました。
真鶴は坂が多く、車が通れないような細い「背戸道」が網の目のように巡っています。家と家の距離が近く、路地を歩いていると、住民の方々の何気ない挨拶や、庭先での井戸端会議など、暮らしの息遣いがすぐそばから聞こえてきます。
この「歩くスピードだからこそ気づける豊かさ」は、今回の視察の大きな発見でした。

真鶴ならではの「背戸道」を進みます

車移動では見過ごしてしまう石垣の美しさ、ふいに視界が開けて海が見えた時の感動。五感を開いて町を味わうゆったりとした時間は、精神的な余白を生み、心を豊かに満たしてくれます。また、アップダウンのある路地を歩くことは、身体的な面からみても有酸素運動として血流を促し、移り変わる風景が脳を心地よく刺激してくれます。

コワーキングスペースで長時間デスクに向かう合間にも、こうした「歩く」という行為を取り入れることは、思考を整理し、新しいアイデアを生み出すための余白として、非常に理にかなっていると実感しました。

日常をコンテンツ化する。「何もない」から見つける豊かさ

今回のまち歩きを通して強く感じたのは、地域の魅力とは決して「分かりやすい観光名所」だけではない、ということです。
真鶴出版の來住さんが案内してくれたのは、地元の人にとっては当たり前の、何気ない日常の風景でした。干物を干す匂い、路地裏で丸くなる猫、個人商店でのちょっとした立ち話。一見すると「何もない」ように思える日常の営みの中にこそ、外から訪れる人間にとっては新鮮で、心惹かれる豊かなストーリーが詰まっています。

真鶴出版が素晴らしいのは、こうした「地域の日常」に光を当て、見事にコンテンツ化している点です。
町の人々との関係性を丁寧に築き、そこにある暮らしの価値を再発見して、外の人へと手渡していく。地域の魅力は、ただそこにあるだけでは伝わりません。真鶴出版のように「翻訳して伝える存在」がいるからこそ、共感した人々が何度も訪れたり、移住を決意したりするのだと深く納得しました。

宿浜商店街の一角にある酒屋、草柳商店。まちの人々が集い、楽しげな雰囲気を放っていた

暮らしを守り、次につなぐためのヒント

真鶴の視察は、「まちづくり」の本来の意味を私たちに問い直してくれました。
地域を活性化させようとする時、私たちはつい「新しい箱(施設)を作ること」や「大規模な開発」に目を向けてしまいがちです。しかし、真鶴が選んだのは、スクラップ&ビルドではなく「今あるものをどう愛し、どう残していくか」という道でした。

真鶴出版3号店は一棟貸切。懐かしさとセンスの良さと居心地の良さが同居した空間

先述した「美の基準」というフィロソフィーが町の人々に根付いているからこそ、新しく移り住んでくる人たちもその価値観に共鳴し、景観や文化を壊すことなく風景に溶け込んでいきます。昔からの住民と、新しい風をもたらす移住者や訪問者が、互いにリスペクトし合いながら交わること。それこそが、地域の自然や文化、暮らしを守りながら次世代へとつなげていくための、最大のヒントなのだと感じました。

伊豆大島・WELAGOの今後の活動へ

真鶴の風景を歩きながら、私たちの頭の中には常に「伊豆大島」の姿がありました。
伊豆大島にも、圧倒的なスケールの自然と、島ならではのゆったりとした時間、そして独自の文化と人々の温かい暮らしがあります。海で隔てられた「島」という環境だからこそ育まれてきた、強固で魅力的なコミュニティが存在します。

真鶴出版2号店の共有スペース。雰囲気が良すぎて夜中まで語らいました

私たちWELAGOは、伊豆大島におけるコワーキングスペースとして誕生しました。しかし、今回の視察を経て、私たちが果たすべき役割は単なる「快適なワークスペースの提供」にとどまらないと確信しています。
真鶴出版が町と人をつなぐハブであるように、WELAGOもまた、伊豆大島の「日常」と「訪れる人」を接続するハブでありたい。

パソコンを開いて仕事をするだけでなく、仕事の合間に島の風を感じながら歩き、島の人と言葉を交わす。そんな「働くこと」と「暮らすこと(生きること)」がシームレスに混ざり合うような体験や価値観を、ここ伊豆大島から提案していきたいと強く思っています。
近隣でありながら全く異なるアプローチで地域を育む真鶴での体験は、私たちの背中を大きく押してくれました。

889年創建の歴史ある神社「貴船神社」の大石段は煩悩の数と同数の108段

これからもWELAGOは、地域の文脈を大切にしながら、伊豆大島の魅力を発信し、多様な人々が交差する場を育てていきます。ぜひ、皆さんも伊豆大島へ、そしてWELAGOへ足を運んでみてください。私たちの日常が、皆さんにとっての新しい「気づき」になることを願っています。

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